感想

きららとかアニメとか本の感想を連ねていきます。

Aチャンネルを完読して

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Aチャンネル 公式サイト - アニプレックス より

 

はじめに

 感想を書き連ねる前に、簡単に私がAチャンネルの原作を完読するに至った経緯だけお伝えしたい。私の個人的な話が興味ない方はぜひ飛ばしていただきたい。でも、「きららって何?」「美味しいの?」と思った方はぜひ読んでいただきたい。

 

 私はもうアニメ視聴する趣味を続けて6年目に入ろうとしている。しかし、この所謂「きらら系作品」「ジェネリックきらら」と呼ばれるジャンルが去年の夏頃まで好きじゃなかった。というか嫌いなまであった。大まかに言えば、かわいい女の子(主にJK)がゆるふわに楽しく過ごす日常を描くジャンルのアニメである。もちろん何も全く見ずにこう嫌いになったわけではない。私がちょうどこのアニメ視聴の趣味にハマりかけていた頃、「ご注文はうさぎですか??」が放映されていたため、ちょっとした(?)「ごちうさブーム」がオタクの間で巻き起こっていた。そこで当然のようにこの沼に私を引き摺り込んだ友人からも当作品の視聴を勧められ、ニコニコ動画で無料公開されている第1期の第1羽を視聴してみたのだ。

www.nicovideo.jp

 

当時の私には何が面白いのか全く分からなかった。

 

 気分としては視聴している画面からずっと生クリームをぶっかけられているようなものだった。こんな視聴者媚びアニメが好きなやつがいるから「豚」なんて単語が生まれるんだとか超超超失礼なことを考えていた(すみません)。完全に和解した訳ではないけれども、今ではごちうさシリーズの良さが、そしてなぜこんなに人気なのか自分でも少し分かったのではないかと思っている。

 転機は去年の秋学期に訪れる。おそらく今までの人生の中で一番忙しい時期になったのだ。課題と授業とバイトに追われ、脳内ToDoリストが完全に空になったことがほぼ無く、心が休まらならずにメンタルが少しずつ削られる日々だった。そこで昼休みに1話ずつ癒されるアニメを見ることを決め、当時も嫌っていたきららアニメではあるが、社会現象にもなり、かの京都アニメーション制作の超有名な作品であるところの「けいおん!」を最初の作品として視聴を開始することにした。昼ご飯を食べながらの視聴ということもあり、最初はただ気楽に見ていたが………

 

なぜか3日で視聴を終えていた。

 

暇人ではない、もちろん睡眠を削って昼休み外でも視聴を続けていたのである。忙しさで干涸びていた心に、かわいくて、ゆるくて楽しくて、でも少しずつ時間は進んで、切ない、そんな日常が染み渡っていったのだ。自分で言っていても語彙力がないと思うし、伝え切れるものでもないと思う、のでこの文章を読んでいる人で「けいおん!」未履修の人はとりあえず1話見て欲しい。
 そこで私のきらら系作品やジェネリックきららに対する「ただ女の子がかわいいことをするだけ」という偏見は跡形もなく消え去り、私の「1日1きらら」習慣がスタートした。結局去年の秋学期は、「けいおん!!」に始まり、「スロウスタート」、「ゆゆ式」などきらら系作品9クールに加え、「のんのんびより」などジェネリックきらら作品も5クールほど消化してい た。何度でも言おう。暇人ではなかった。寧ろ忙しいからこそ、心の癒しを求めてしまうのは当然であろう。

 さて、その中でAチャンネルは5クール目に視聴した作品である。そこまでで視聴した作品が女子高校生の学園ものであったということと、単純にキャラデザが好みだったので視聴することにした。まんがタイムきららの原作に手を出したのは最近だったこともあり、Aチャンネルの原作を手に出したのは1ヶ月半前くらいである。とまあここまでの文章でお分かりだと思うが、まだきららに傾倒してからまだ半年ちょっとの若輩者である。ゆえに、きららについて造詣が深いわけでもないので、解説とか考察とかではなく、記録として自分の思うままを書き記していこうと思う。

 

Aチャンネルの簡単な紹介

 

 ここでは、Aチャンネルの簡単なあらすじを記していく。逆に完読済みである方は読み飛ばしてもらってもかまわない。

 Aチャンネルは、主人公であるるん(百木るん)の通っている高校にこの春から幼馴染のトオル(一井透)が通うことになり、るんとトオル、そしてるんの友達であるユー子(西由宇子)とナギ天王寺渚)との楽しい高校生活を4コマ漫画で描く物語である。さて、ここまでは割ときららの"テンプレ"のような形になっているので、Aチャンネルについてのイメージの外堀を埋めてもらうために、「Aチャンネル 公式サイト」のキャラクター欄からそれぞれのキャラの説明を一部抜粋して引用したい。キャラもかわいいので、ぜひ一度ハイパーリンクから公式サイトを訪れてその姿をしかと目に焼き付けて欲しい。

 

  • るん・・・ハイバー天然娘。その言動は予測不可能。明るく前向きな性格で男女問わずの人気者。
  • トオル・・・幼馴染のるんが大好きで、同じ高校に入学する。るんに近づく人間にはカゲキな行動にでることも…。実は意外に優等生?
  • ナギ・・・一番の常識人(?)で落ち着いた性格でツッコミ上手。しかし、話題が体重や体型のことになると…厚さ、寒さが苦手。
  • ユー子・・・黒髪ロングでスタイル抜群。気弱で怖がりなため、トオルやナギにからかわれたりいじめられることが多い。なぜか不運に見舞われることが多い。

  他にもトオルと同じ学年の友達、ユタカとミホ、その他教師陣も登場するがここでは紹介を割愛させていただこう。

 

Aチャンネルの魅力と感想

 

  さてようやくだが、Aチャンネルの魅力を語っていきたいと思う。最初に言っておくが、多分「Aチャンネル①」を読んでもそこまでこの魅力は伝わらないと思う。Aチャンネルの魅力は、2つの「和解」にあると考えるからだ。1つずつ述べていきたい。以下Aチャンネルの場面をいくつか紹介するので、重大なネタバレなどは無いつもりであるが気にする方は読まないでいただきたい。

 

 1つ目は、トオルと登場人物との「和解」である。

トオルは口下手であまり自分から心を開かない性格だ(他人のこと言えんのか?というのは置いておいて)。そのため、1,2巻では特に、衝突、とまでは行かないがるん以外の他の登場人物とあまり上手く行っていないような場面が描かれる。例えば、ナギやユー子である。上の紹介にも書いたが、トオルはるんに仲の良い人間にあまりいい顔をしない。るんがトオルを、自身の高校の友達であるナギとユー子に紹介する場面が1巻に出てくるが、トオルがるんの部屋に入ってきた時、ユー子とるんがもみ合っていたところを目撃される。それ以来、ユー子はトオルの目の敵にされ、会うたびにその胸をいじられる。

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Aチャンネル 1巻第0話より

さらに、何回かユー子とトオルが2人きりになるシーンがあるのだが、そこでユー子が気まずく感じている様子が描かれている。ナギとトオルが2人きりになるシーンもいくつかあるが、ユー子とほど気まずい空気は流れないが、なかなかどうしてトオルの口数は少ない。基本ちょっかいがコミュニケーション手段となっている。また、先ほどは紹介で省いたが、同学年のミホとユタカとの「和解」も見られる。ミホとユタカは、トオルのファンだと言ってトオルと仲良くしようとするが、当然トオルは戸惑う。しかし、そんなトオルであるが、少しずつ周りの人に歩み寄って周りの人もトオルに歩み寄って「和解」していき、トオルにとって高校が本当に心地の良い場所へと変わっていく。そんな過程を含んだ何気ない日常がとても愛おしく尊い

 

 2つ目は、読者と登場人物との「和解」である。

Aチャンネルには濃いキャラクターがたくさん登場する。1つ目でも紹介したトオルは、るんに近づく男友達をバットで追い払ったり、るんはちょうちょを追いかけて車に轢かれそうになったり、ミホは急に隣の席のクラスメートであるトオルにファン宣言したり、…1巻から大渋滞である。最初これを読んだ時は、面を食らうこと間違いなしだ。ユー子とナギくらいしか理解できるキャラがいないかもしれない。

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      Aチャンネル 第1巻第1話より


しかし、結論から言うと、Aチャンネルはどのキャラもとても可愛らしくて推せる。こんな濃いキャラ達を掘り下げてくれる仕掛けがいくつも用意されている。高校入学前の話や入学した直後などを前日譚として4コマじゃない形で描き、主要キャラ4人全員ではなく2人で遊ぶ機会を積極的に作ってもいて4人全員では中々でないキャラの素顔を晒し、主要キャラと顔を持っていないその家族との掛け合いもよく起こす。このような 様々な仕掛けを通して、読者の心の中で1巻で作ったキャラの下書きが徐々に彩を持ってくる のだ。最初そのキャラ概念が理解できなかった分、読み進みていくとどんどん愛着が湧いてくる。5巻も読み進めるころには、読者の心の中に、人間味をもった各キャラが実体を持って現れてくる。

 

 このように、Aチャンネルを読み進めていくと以上2つの「和解」によってAチャンネルに出てくるキャラが、キャラ同士の関係が少しずつ好きになっていくのではないだろうか。

 

他のきらら作品と比較して

  最後に、Aチャンネルを昨今のきらら作品と比較して、Aチャンネルがどういう作品なのか考えてみたい。(自分はアニメからきららにはまったので、知識がアニメ化作品に偏っていることご了承いただきたい。)

 

 まず、Aチャンネルの特徴として挙げられるのは、主要キャラが同じ部活に入っていない、ということである。学生生活を舞台にしたきらら作品でよくあるのは、同じ部活や同好会に入ったり、それを作ったりしてそこで物語を繰り広げるという流れである(同じ部活には入っていないが、同じアパート等に一緒に住んでいる、という作品もそれなりに見受けられるが、Aチャンネルはそういうこともない)。そしてそこでゲームを作ったり、ロケットを作ったり、バンド組んだり…など物語の中に1つ軸を置くのだ。これはAチャンネルがどんな漫画か?と言われた際にど定番なきららの学生生活漫画としか言えない原因でもある。

 

 また、少し繋がっている部分もあるが、いざこざや問題、イベントを次の話に持ち込まない。基本的に1話完結である。同じ単行本内でも話(わ)が違うと時系列も結構飛んだりすることがよくある。つまり、重い問題を抱えているキャラがいたりする訳でもなく、何かの大会に全力を尽くして汗水流す青春がある訳でもない、ということである。

 

 さらに、ファンタジー要素も皆無である。部活のない学生生活を舞台にしたきらら作品であるのは、魔法少女や天使が登場するものも多い。うさぎがしゃべったり、抱き枕が人になってりするものもある。しかし、Aチャンネルではこうしたファンタジー要素を徹底的に排除している。というか普通の高校生活を描いている。

 

 さて、いくつかAチャンネルの特徴を挙げてきたが、特徴が無いのが特徴と言えよう。いや正確に言うなら、1場面1場面がいい意味で、現実でもありそうな、どうしようもなく普通で下らなくて1ヶ月も経てば忘れそうででも半年経ったらふと思い出したりするかけがえのない日常、それこそがAチャンネルのもつ特徴、なのではないだろうか。余談だが、もしこの舞台装置という点で似ているきらら作品を挙げるとすれば「ゆゆ式」だろうか(「情報処理部」という部活に主要キャラは所属しているものの実態はただしゃべっているだけである)。ただ「ゆゆ式」はほぼ会話だけでギャグコメディ要素を作り出している(これが「ゆゆ式」の凄い所でもあると思う)のに対して、「Aチャンネル」はキャラの行動も交えてギャグコメディ要素を作り出しているのが大きな違いだろう。部活がない、ファンタジー要素も皆無であるという2つの要素のみを考慮した場合は「スロウスタート」が似ている作品かもしれない。しかし、「スロウスタート」には、「高校に1年遅れて入学した花名が成長する」というテーマを1つの軸に据え置き、それを忠実に「時系列順に」描く、という点で「Aチャンネル」と大きく異なるように思う。

 

 今時ここまで「無色な」日常を描くきらら作品も珍しいのではないだろうか。私は時々、なぜ彼女らの日常は私と違ってこんなに輝かしいのか、と考えることがある。多くの作品でそれは、ある1つのことに打ち込んでいるからとか、最高の職場に勤めているからとか、魔法少女が存在しているからとか、それなりに納得のいくような答えを出すことができると思う。しかし、「Aチャンネル」にはそのような答えは中々見つからない。彼女らは、同じようにファンタジーの無い世界で、同じような高校で、特段何かに取り組む訳でもなく、過ごしている。なら何が彼女らの日常を輝かせているのか、私は彼女らのキャラの魅力に他ならないのではないかと考える。別に他の作品を批判する意図は全くもってないが、このような「無色な」環境だからこそよりいっそうキャラの魅力が引き立つのではないのだろうか。少しでも気になった方はぜひ、「Aチャンネル」を手に取っていただきたい。

 

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